今/海 猫
電車のなかで
どこかの赤子
顔にシワよせた老婆が
母の眼差し
一点を見つめたまま
気づかぬ赤子は
老婆が十数年前に
タイムトラベルしたことなど
知る由もない
今を生きることに
精一杯で
喜びも悲しみも幾度も経験してきた老婆にとって
始まりだした赤子の未来が羨ましく感じたのかもしれない
失恋したり
試験に落ちたり
死を恐れる老婆にとっては喜びになる
僕らはいつも
ないものねだり
過去と未来に
挟まり続ける
それは『今』を生きてるしるし
ひたすら始まりを待つだけの赤子には
決してわからない
面白く悲しい
それぞれの
『今』がここにある
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