空を呼ぶ/南波 瑠以
遠浅の日々はいつの間にか息継ぎの仕方を忘れさせる。
駅まで、の最後の交差点に立つと
呼吸が止まるほどに夕焼けの匂いがした。
*
「雲は、本当は流れていないのです。」
無邪気な指先で夢を壊してゆくあのひとは、たった一本の紐で宇宙の形を知ろうとする。
けれどもあのひとの作る理科のレジュメには必ず誤植があって、
見知らぬ土地でローソンを見つけたときのような気分になれる。
空、と口にしてごらん
ゆるゆると青がほどけてゆくから
でも空は
わたしをのみこむことはしない。
*
さようならで雨がやんで
ありがとうで夜が明ける、そんな
世界にいて静脈の
いろはここまで澄んでしまった。
空、と口にしてみると
夕焼けの匂いがした
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