ジェンマなひと/恋月 ぴの
ジュリアーノ・ジェンマって俳優が好きだった
目深にカウボーイハット被り腰のコルトに手をやる刹那
呼ばれてもないくせしてサボテンの根元に転がる根無し蓬がわたしだった
ベッドのなかでもブーツ脱がないジェンマに背を向け
見られてもないくせしてゆっくり鯨骨のコルセットを脱ぐ娼婦がわたしだった
つまるところ、わたしって旅人だったはずなのに
流転のまなざしで自分の人生を見つめる
そんな旅人だったはずなのに
てんぷら油の匂いの染み付いた狭い台所の片隅で朝餉の支度なんかしている
万年床と湿った布団のなかでジェンマとは程遠く
怒りの銃弾に撃ち抜かれたひげ面のメキシカンにも良く似た
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