覗き見る月/千月 話子
対岸で鳴る激しいサイレンの音が
大火事を予想させても
ここには穏やかな自分が居る
興味は彼女の首筋にあり
そこから匂う整髪料の香りを感じながら
翼の名残へ二つの胸を押し当ててみた
男と女の間を飛び交う蝶の夢でも見ればいい
心の中で苦笑する
彼女の薄く開けられた唇から
くすくす と笑いが漏れたような気がした
甘ったるい夢の外で
赤く燃える月が
煙のような雲に飲み込まれ
消失した
身体が眠りを欲しがって
薄い布の中で
私達も燃えていた
通りがかった灰色の飼い猫が
薄緑の瞳をきらきらさせて
私達の放り出された足先を
じぃと見ていた
もしかして それは
月・・・かも・・・知れない・・・
曖昧な覚醒が 錯覚を起こす
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