ガーデニア Co./カワグチタケシ
つけば足を水に浸している
快適さというものがなにか誤解の上に成り立っているのだとしたら
往々にして的外れな僕らの親切は
誰かの役に立つのだろうか
正午の緑道に咲くガーデニア
太陽がいちばん高く上る日に
いちばん短い影を踏むのは君自身の靴だ
最高気温は午後二時に記録される
昨夜の雨に濡れたアスファルトも
午後にはすっかり乾くだろう
***
夏花の残像が夜の庭に鈍く光る
この夜の時差を埋めたい
サンクトペテルブルクの夏至は
ヨハネスブルグの冬至
ひとりの人間がひとりの人間を待つということは
単純な足し算であり、感情の宿る余地はない
ひとりの人間がしばらく何もしないでいて
もうひとりがそれに近づいていくというだけだ
小道は街を抜け、川沿いの草の土手に出る
ふたりは一キロばかり上流に歩き
また街路に入った
都市、飛び石、色彩、気配、
そして彼女の内側に静かに雨が降り始める
夏至の夜、街はガーデニアの香りに包まれる
Contains samples from I.McEwan
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