洗面所から見えない空/草野春心
 
  ぼくは髭を剃ることが好きだ
  冬の朝の洗面所で
  鏡に向って
  そのとき空が晴れていて
  死にたいぐらいに青ければもっといい
  もしもそれが
  洗面所から見えない空でも



  見えているか見えていないか
  それは重要なことじゃない
  同じとき確かに在るものに
  すっぽり包まれているのがいい
  見えているものは切り取られた形
  見えていないものを思うとき
  心は悲しい音をたてて軋む



  ぼくは電気シェーバーを好きになれない
  シェービングクリームと剃刀で
  たっぷり時間をかけるのがいい
  時間は髭を剃るみたいに
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