魔法/木屋 亞万
から乳を出した女は傲慢な顔で不満を呟き続ける
「私は運がないわ、いい画家にめぐり合えなかった、いいえ、画家を選ぶ目が悪かったのよ」
彼は女の背景に見とれて女の口元が動いていることに気付かない
「魔法にかかりたいからと言って、魔法使いなら誰でもいいわけじゃないわ、そうでしょ?」
金持ちと結婚したいからって、誰でもいいわけじゃないのと同じねと私は呟いた
彼は私の呟きを小鳥のさえずりと間違えたような顔で
少なくとも300年は生きられる方法を知っているか?と聞いてきた、(高慢な笑みで
これからずっと俺のモデルになってくれ、君に魔法をかけたいんだ、(媚びる目とほくそ笑む口
私は絵の中の女の目をずっと見つめる、白く柔らかな乳房と褐色の乳首は微動だにしない
女は何も言わないまま、ただ微笑んだ
美術館中のすべての絵がそのときだけは微笑んでいた
私だけが気付くように、さりげなく微笑んでいたのだ
戻る 編 削 Point(5)