ねえ、神さまへ。歓喜の歌を/笠原 ちひろ
 


この世の哀しみにあなたは関係ない
あなたは関係ない



善きものであらねば
あなたに近づけないと思っていたンだ


おとーさんが死んだとき
あたしは17で、ずっと口きいてなくて、

その夜は春で、桜で、おとーさんは帰ってこなくて

あたしはしんしんと、これから起こることの予感のなかで
平気なふりして本を読んでいたんだっけ


ねえ、神さま、
あの春をなかったことにして
綺麗なふりをしても
黒いしみはついたままなんじゃないかと
怯えていたんだ


でも、神さま
世界は美しいね

どんな泥の中からも蓮の花は咲く
蓮の花は咲く


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