名前を教えてあげる/あぐり
のかもしれない
踏切でレールの先をみていた君とわたしの指には花が咲かない
望んでもいないのに水をかけられてしまう
名前さえ知らない他人に便宜上名前を聞かれる度
耳元でこっそり君の名前を教えておく
朝の九時にはいつもの教室で視線を合わせ
君はだるそうな声でわたしの存在を今日も抱き寄せ
また昨日よりも綺麗になってしまっているその蕾に
無防備な香りを纏っては、知らぬ振り
どうして毎日一緒だというのに
この二つの感情は交わらないのだろう
、声を出さないからかもしれない
押し殺しておしころして、夢だけをみているうちに
君だって誰かの体温に染まっていくのかもしれない
慣れすぎている
揺れない心なんてものはなかった
のに
夜ごとわたしの上に覆い被さるのは淋しさで
舌で掬い取られるその味を囁いてみてよ
また誰かが
君の名前でわたしを呼ぶ
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