無辺の生/高橋魚
 
車輪の一つ取れた車が
鳶のように夜の道路を柔らかに滑っている
その滑空は
ときに私を恐ろしくさせる
明けることのない夜の中
草を撫でる風のように
その車は
欠落していることを感じさせずに走ってゆく
走り去る車のランプは
路上に涙を零してゆくように過ぎ去るが
そう見えるだけなのかもしれない
それは私の比喩なのだ

茫洋とした道を
様々な車が走ってゆく
曙光の射すことの無いこの世界では
あらゆる光は
刃物でしかないのだが
私は
夜光虫のように刃物に近寄ってしまう
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