夕暮れの歯ブラシ/サトタロ
久しぶりに田舎に帰ったら
冷凍庫のタッパーに歯ブラシが入っていました
その晩に夢を見ました
小学校の頃に好きだった女の子と
その子は小学生の姿のままで
今の私が並んで歩いていました
ふと気がつくと
こうもりの飛び回る茜色の空に
毛先の開いたおおきな歯ブラシが浮いていました
非常にゆっくりと東の方角に進んでいました
足を止めてしばらく見上げていたらやにわに彼女が
宙を駆け上がって
壁の隙間に手を伸ばすように
毛と毛の間に半身の自らを捻りこんでいき
そのままブラシの密林に消えていきました
その一部始終も眺めていたら
我が家の方から掃除機をかける音が聞こえました
ベッドの下に
彼女のパジャマが丸めて隠してあるので
私は小走りで家路を急ぎました
彼女は歯ブラシに乗って
空から私を見守っています
戻る 編 削 Point(2)