この夜と同じ/葛西曹達
 
夜は全力で消えて行こうとするし
そのくせ忍び足でやって来る

じきに釣瓶落としの季節
時間の感覚が薄れていくなかで
太陽は少しずつシャイになってゆく

下弦の月に目をやれば
鈴虫の声が耳に張り付いて
たまに通るバスなんか
全く以て気にならない

長針と短針が指すのははただの事実
時間の感覚が乏しくて
体はくたくたするし
頭はくらくらする

ぽんぽん涌きでる言葉たちは
文章にしたためるまえに消える
この夜と同じだ
この夜と同じなんだ

缶ジュースのプルタブは
異世界の音がした
涼しくなる夜空のもとでそれは
静かに六畳一間に響いた
戻る   Point(0)