遠雷/ホロウ・シカエルボク
ら僕のことを抱きしめた
僕は人形みたいに
彼女の悲しみを黙って聞いていた
昨日、アリスが死んだ
僕の腕はこんなだから
君との間に生まれたもうひとりのアリスは
施設に預けられることになって
僕は精一杯のことをして
彼女に一番いい服を着せてあげた
おとうさん、とアリスは言った
涙でぐしゃぐしゃになった顔で
まっすぐに僕を見つめて
駄目な僕の左手を
強く強く握りしめて
僕は彼女に向かって微笑んだ
彼女は綺麗に磨かれた車に乗って
僕の知らない街に連れて行かれた
安アパートの
すっかり汚れた窓には
ショールのように雨雲をまとった月
遠雷が聞こえていて
僕は静かにそれを聞いている
天国を手に入れたみたいだった
目覚めたとき
僕のそばで
無防備に微笑んでいた
君の
安らかな
寝顔
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