well/井戸/月乃助
 
なのです
ここを出て行かないおかげで、何かが、
いえ、何も変わらないということの
その恩恵を、誰もが味わっているとしたら、
ここを出る理由はあるのですか、

きっと、その時がきた時には、
嫌でも出なければならない
この世などそんなふうになっています

誰も、井戸に暮らすものたちはみな
底から見える青空を見上げながら
力をつけているのです
外界に出る準備段階の、イメージ・トレーニングを重ねながら
嫌なほどに、現実はせまってくるのでしょうが、
十全に生きながら、水位の飽和点の訪れはやってくるのです
驕るものたちを嘲笑うことのできる時が、
それを投げ出しているものたちが多くても
どうやっても迎合する必要などないと、
四方のぬれた壁をみつめながら
それがゆるされる、時間の使い方も長いここでの暮らしには
必要だということもあるのです

ここを出る時のために
井戸の中で息をつまらせるのではなく、
すこやかな安らぎを求める、
いつかやってくる
大海を待ちのぞむために、

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