カタクチイワシと仔猫たち/相田 九龍
「カタクチイワシを一言で言い表すのは難しい」
爺さんがそんなことを縁側で呟いていたので
爺さんに聞こえるよう
「ニシン」
と呟いて宿題をするために部屋に戻った
部屋の勉強机は窓の手前にある
その窓から下にある庭が見える
爺さんはまだブツクサ言いながらゴルフの素振りを始めた
ブロック塀の上で仔猫たちが寝ている
思わず散歩したくなるような陽気で仔猫が羨ましくなる
爺さんの素振りは下手糞だ
見てられない
ふわっと風が吹く
心地よい風に、爺さんも顔を上げた
空には魚のような雲が泳いでた
爺さんはもう一度グラブを構えた
神妙な面持ちでスイングに入る
初めて爺さんの構えが綺麗だと感じる
「ニシンッ!!!!」
と言いながら振り抜いたグラブは
空気のボールをどこまでも飛ばしていった
魚の雲にはいつの間にか目ができていた
「ナイスショット!!!!」
と叫んで、俺と爺さんは笑いあった
仔猫たちはブロック塀からいなくなっていた
ニシンを食べに行ったのかもしれない
戻る 編 削 Point(7)