野口さんの夜/八月のさかな
野口さんが今夜も
庭石をぎりぎりと鳴らす
昨日の鰹節はお気に召さなかった?
ああ、もう香りが飛んでいるのね
でも庭を散らかした次の日は
わたしが掃除をする代わり
おまえはお隣でごはんをもらう
知っているくせに今夜も
庭石をぎりぎりと鳴らす
名前の理由?
おまえはほら、
ずっと昔に野口くんが飼っていた
あのつれない猫によく似てる
わたし大好きだったの、野口くん
もう1枚の写真も残っていないけど
それでも大好きだったの
野口さんが珍しく
ちいさな声で にあう と鳴く
わたしは蹴っ飛ばすふりをする
道の向こうまで飛び退いて
野口さんが珍しく
にやりとわらう
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