いちご通りの話をしよう/あ。
 
通り以外の通りの名前を知らなかった
知っていたら間違いに気付いたのかもしれなかったのだが
そのせいで想像力はとどまることなく加速してしまう
他の通りにも果物の名前が付いているに違いない
メロンやレモンやみかんといった色とりどりの果物の
かわいい名前が付いているに違いない


空想はとりとめもなく時間を奪い
流れる雲も形が変わって
空の色も温度も毎日変動しながら過ぎていく
手を伸ばせば触れられそうな夕日も
段々にしおれて首を垂らしていく向日葵も
子どもながらに声を上げてしまいそうなくらい
胸が苦しくなってしまう


その通りがいちご通りではなく一号通りだと知ったのは
向日葵の姿も消えて田んぼの稲刈りが始まった頃


鮮やかに色づいていた空想が
みるみるうちにセピア色になる
全てが輝いて見えたあの通りは
突然たくさんのなかの一つになってしまう


溶けた風景の美しさに気付くには
わたしはまだ子どもだった


とても残酷な子どもだった

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