右手/葛西曹達
右手には紺のカバン
僕の大事な持ち物を
詰めていつも持ち歩く
左手には君の手
僕の大切な人の命を
握りながら練り歩く
気温は徐々に下がり
町に雨が降ってくる
左手は傘に変わり
大切なものを手放した
僕が守ろうとしたものは
君のきれいな髪でなく
君のか弱い体でもなく
僕自身だったのかもしれない
カバンの中を見てみたら
大事なものは一つもなかった
勝手に落ち込んで
下を向いて歩いていた
傘を持つ左手が
急に温かくなった
君の右手は確かに
傘を持つ手を持っていた
僕が守ろうとしたものは
君の小さな顔でなく
君のか細い腕でなく
僕の弱さだったのかもしれない
僕が守るべきなのは
君の小さなやさしさと
君の大きな存在と
君自身なのかもしれない
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