江戸の楼閣ーすけきよのこー/……とある蛙
 
海原を望める楼閣から
富士を眺めていたその人は
貴人の家宰だった。
相模の山中の湯屋で
騙し討ちにあって
死んでしまった。

楼閣から海原を眺め
歌でも詠んでは酒を飲み
富士を望んでは歌を詠み
また、悠然と酒を飲む。

楼閣から望む海原や富士の美しさは
その人の日常でしかなく
惜しまれて死んでしまったが、
時代に巨大な一ページを付け加えることはついぞなかった。
山吹色の伝説を残して
惜しまれて死んでしまった。

北側に山を望める相模は
母の故郷であった。
その人の葬り去られた糟屋は
山一つ隔てたところ

母の故郷は
南側にも山のある盆地だったが

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