涕涙温溶/木屋 亞万
永遠のひび割れていく音がして
半球は淵から欠けていく
美しいひとに抱きしめられ
全身でぬくもりを感じるまでは
生きていようと心に決めた
あの冬の寒い日
凍結した死の決意は
恋をしたときに
溶ける気配を見せ始めた
土砂降りの雨が
もう十数年降り続けている
私の胸元の世界で
画用紙で作ったような薄い私が
クレヨンで描いたような涙を流している
誰かが笑うたびに心臓が毛羽立ち
小声の会話を聞くたびに堪忍袋は切り刻まれた
私の世界の私の石像は酸性雨を一身に浴びて
ただの細長い岩へと変わった
私らしいものなんて
この世界には微塵も存在しない
私は誰かに似
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