夕日坂/灯兎
て小さくした歩幅が、二人の影をゆっくりと揺らしていた。その坂を下りきったところには、Y字路があって、いつもそこで君の手を離してしまったことを、いまさらのように悔やむ。
物語の中でありふれている幸せに恋をしていたんだろうと、やっと思える。あの頃の思い出が今でも優しくて、その柔らかさに、今でも君の手がそばにあるような気がしてしまう。あのY字路みたいな別れを、あれからの僕は何度経験してきたのだろう。迷って、うろたえて、決意して、そのときなりの最善を尽くしてきたつもりだけれど、今の僕には何も残ってやしない。つまり僕は曲がり角の度に、道を忘れないように、いつでも戻れるようにと、自分の中の何かをそこに結
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