夕日坂/灯兎
白んだ月が、ビルの谷間にぼんやりと浮かんでいて、僕の想いも白けてしまったなと行くあてのない感慨を持て余してしまう。一度も君を抱きしめられなかった思い出を、缶コーヒーとセブンスターで追悼して、また歩き出す。この時間帯の、私は人様のことなんて知りませんよ、という風に澄ましている空も好きだけれど、やはり僕は夕日を好もしいと思う。ほこりをたっぷり孕んでなお輝く赤みと、昼の慌ただしさと夜の静けさの熱量が等分で入り混じった温もりが映し出す影。その優しさは、弾力を失った僕の心にもわかりやすい。
学校からの帰り道で、住宅街の真ん中を突っ切る坂を下っていた。あのときも夕日を背にしていて、背の低い君に合わせて小
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