架空の城/殿岡秀秋
 
奥の
城跡近くの石切り場に
切りだしたまま
削りかけの石が残っている
だれに命じられて
職人は石を放置したのだろうか
苔むした残骸は
時を経ても無念の表情を浮かべている

ぼくもいつかは
作りかけの言葉の石を残してゆく
それまでの間
人々の役に立つこともなく
報酬を得ることもなく
言葉を刻んでゆく

長い間だれも住んでいないのに
石の部屋には
暮らす人の匂いと影とが残っている
奥から食事の用意ができたという
声が鳴って
思わず立ちどまる

石の壁の道は路傍の花のように
通る人を迎えてくれる
この仕事をしていて幸せだったという
職人のつぶやきが
聴こえてくる気がした

言葉の石を並べて
架空の城を立ちあげるのが
ぼくの仕事である



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