限りある世界で嫉妬する/渡邉建志
 
++

風がびゅうびゅう


襤褸をまとった子供が突っ立っている。
ざらざらとした、いかにも竹上好みの世界を、
無表情のまま、子供は西へ歩いて行く。
そこは、傷つきやすい繊細な心、という世界ではもうない。
ざらざらと通り過ぎている。
何しろ彼は西へ行く。仏になろうと。
殺伐とした世界を。

「そうか」というだけの彼は動かない。動かないで見ている。
見ながら「西へ ゆくのか」とだけ言っている。感心している。感嘆している。
だけである。
主人公の動かなさ/動けなさ、あるいは主人公がただひたすら開いた眼であること、
そこにこそ、いつも、竹上的世界の驚くほどの美しさがある
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(3)