目尻はあの炎のように/葛西曹達
画面の向こうでは
なにやら燃えている
そして崩れ落ちている
僕はただ眺めている
それはただ目の前にあった
異様な光景を
異様だと理解するまで
すこし時間がかかった
すべてが崩落した
建物も人も秩序も
焦げ付いた匂いは
ここには伝わらない
阿鼻叫喚が聞こえる
なにも考えられなくなった
なにを考えたって
事実は事実でしかなかった
あれから何年か経って
何気なく日々を送って
遥か彼方の爆薬に
目を向けることもなくて
でも悲しむ人はいる
泣いても泣いても報われず
目尻はあの炎のように
真っ赤に腫れあがって
誰のせいかなんて
とうに忘れてしまった
誰のためなのかも
思い出せなくなった
それでもいいから
また笑顔を見たい
見たこともないのに
なぜか願ったりして
あの日の出来事は
脳裏に焼き付いてるから
忘れることはできない
来年も十年後もきっと
関係ないはずの世界が
急に近くなる夜十時
何もできず立ち尽くして
僕はまだ世界を知らない
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