エーゲ海 ♯1 /服部 剛
 
私という一艘の船は、ふたたび羅針盤の針を航路に向けるか? 
心の空には、あの遠い記憶の鶴が舞い戻って来るか? 
風の唄声は、幾重もの小波(さざなみ)の上を息吹くか? 
深い海から吸い寄せられた海豚(いるか)達は集い 
新たな光に背をあたためるか? 
あの花のまぼろしは、ゆっくりと開くか? 
その時は、今か? 
春にはいつも 
生ある者の心が蘇(よみがえ)り 
只ひとつの愛と黄金時代の記憶が人間にめざめる 
その時 
風は私を訪れ 
時間(とき)の止まった水平線の下に
新しい太陽のしゃがんでいる 
夜明け前の海洋の静寂(しじま)に 
私はあいさつをする 


おはよう、古(いにしえ)の蒼い海神(ポセイドン)よ 
二度と無い、今日という日の幕開けよ・・・! 





  ※ この詩はヘルダーリン詩集(岩波文庫)に掲載の 
   「エーゲ海」という詩の1連目を異訳したものです。 







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