熱病に冒された/ゼロスケ
 
業務用空調機は吹き出し口から花々を吐き出した。少し湿っている。
背広を抱えた中年や、帽子を被り小さい手を引いた主婦に、
鞄を襷掛けにした学生や、カートを引くお婆さんに、降りかかっていった。
熱い汗の噴出す首筋や腕に、冷気とともに花びらははりつく。
ひび割れた歩道の上に、バラバラと落ちる、落ちる。
花びらしか食べないある種の小鳥にとっては天国だったろうが、
この道にそのような悪い虫はいない。その安穏に気付かないのか。
行き交う人々は、さも当然のように花風を身に受けて、
全身を極彩色に染めながら、慌しげにいずこかへと去っていくのだった。


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