kill time./吉田ぐんじょう
 
陽炎を踏み越え君は手を振って、あちら側へと行ってしまった


家じゅうを掻きまわしつつ探したが、あの日の記憶が見つかりません


路傍にはいつも死骸が落ちている、人かも知れぬ、見ない振りする


正論もニュースも聞かず死にたくて鳴らないラジオ直さずにいる


夕暮れに家へと急ぐ子供らの髪から落ちる空の欠片が


かなしがるぼくたちの背が割れてゆく、きっと蝉だね(夏の路上の)


食卓にあぶらまみれで落ちているちくま文庫の文豪の顔


なんとなく子供が欲しくて無精卵あたためてたら割れて流れた


誰もみな何かをおそれて生きている全治不能の傷を抱えて


深更に みし とサキイカ噛んでいるけっして誰も殺さぬように


求人のチラシで折ったひこうきを無くなっちまえとぶん投げてみる


昼間でもつい電燈をつけるのは夜行性のけもののさがです


(ドア前に誰か立ってる気がしててだからどこへも行けないのです)





kill time…退屈凌ぎ、ひまつぶし

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