転換/霜天
また、新鮮な朝がきて、君はいなかったりも
する。珈琲の香りはどこへ消えてしまった、
というのか。乾燥した部屋に、私が傾く音だ
けが響いた。人は、溶けるのが早い。君が溶
け始めたころは、お手玉を投げ分ける手つき
で、一日を繰り越していた、というのに。固
まってしまった私の、隣はすり抜ける人たち
で溢れている。君はいなかったりもする、明
日の朝はどうだろうか、と。溢れる波を掻き
分ける駅のホームに落とされる視線は、いつ
ものように溶けて、いるのか。君はいなかっ
たり、もする。私は掌から零れる、珈琲の香
りの行方、ミルクで強引に流し込んだ一日の
着地、それらの行く末を。眠る前の薬の中に
忍ばせて、飲み干した。明日、君はいて、輪
郭はすっかりとかたちになって、いるという
世界。場面は切り替わり、風は一つずつ止ん
で。転換する私の裏表、君の上下。答えはか
たちにはならずに、全てを乗せて電車がやっ
てくる。扉が開くと、珈琲の香りがした。
戻る 編 削 Point(3)