初秋の対峙/伊月りさ
無知な人たち、と
父の生家に唾を吐き
母が消えた
時の区分は夏、そして
秋にも依然、消えていた
秋の再来
消えている母
九月は母の誕生月
父はきちんと知っていた
本日、九月の二十五日
父には見当識もある
新宿の高層ビルの 高層階の一つを拠点に
講演、執筆するほどなので
父は暗記も得意である
なるほど、たとえば
暗記することが多すぎて 誕生日なんて忘れてしまう、
と、言ってしまえば
出世で愛を誤魔化せる
父とは結婚したくない
無知な人たち、と
わたしが思わないのは当然で
八十回も夏を終えている
祖父母が無知であるものか
祖父はわたしに会うたびに
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