冷たいルポルタージュ/相田 九龍
明かりを消した部屋
カーテンの隙間から
猫が月を見ている
彼女の飼っている 黒い猫
うっすらと浮かび上がる
陶器のような彼女の背中
昼が人の表側を照らすのだとしたら
夜は人の裏側を照らし出す
その掌の上に くっきりと
浮かび上がる
暴力や、渇きや、飢えや
開け放たれた窓
例年よりも涼しい夏は
過去を振り返ったときの
胸の焦がれではなく
その間延びしてゆく私の精神
弛緩してゆく私の器
何十枚もの忠実なルポルタージュ
失われた大切なものは
まだ大切なものなのだろうか
これは私たちに科せられた
冷たい死刑
明かりの消した部屋に浮かび上がる
彼女の美しい背中には
幾通りもの私たちの闇が
まだこの掌にある大切なもの
守らなければならない大切なもの
カーテンの隙間から月明かりの方へ
月を見つめる瞳から零れ出して
誰だかの
代わりに座って
ひとつだけ聞いてみたいのだけど
自業自得を唱えた彼に
自らに科せられるべき罪は
どれほどなのかと
戻る 編 削 Point(2)