失われた胸/伊那 果
 

  思い出しそうになり
  切り裂かれる前に、やめる
  メスが切り裂いたものは
  彼女のよるべ

 私は貧弱な胸をいつも嘆いてきた
 揺らすこともなく
 月あかりの下を歩く
 とぼとぼと
 今日の私は惨めだが
 胸を失えばこの日をうらやむのだろう  

  川の周りには昔から
  性にかかわる街が開けた
  このおだやかな川のそばには
  巨大な鉄筋コンクリートの病院が
  生も性もよろこびもかなしみも
  ぱっくりと包み込んでいる
  
 川の流れに
 投げる 
 そして
 私は歩いていく
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