安曇野/銀猫
海より遠い、
安曇野を思う
穂高の山々を
わさび田の清流を
あるいは
ただその空を思う
閉め切った窓の硝子に反射する、
ピアノ曲に誘われ
ふっと解けた封印は
気付けばとっくに色褪せて
その内側に何を凍らせていたのか
よく覚えてさえいなかった
きっとわたしのことだから
だれかの思い出が
さびしい夜にはしゃがないよう、
無かったことにしたのだろう
めぐった月日は今日になって
いとしさに眩暈がする
列車を乗り継いで行ったことはない
地図を買った覚えも無い
ただこの旋律が
わたしをのせて安曇野へ流れる
海より遠い、
安曇野の空が僅かに切り取られ
ここへ落ちてきた
ただその空を思う
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