水の匂い/within
投げ打つ。メー
ルの着信にも気付かずに。
はじめに声をかけたのは僕なのに 最後に残されたのも僕。話の
始まりと終わりが同じ点だなんて なんて循環小数。
目を醒ますために飲んだコーヒーのせいで 腹の具合がおかしく
なり トイレで思索に耽るはめになった。日焼けした僕の腕は野
生を取り戻そうとした際に返り血を浴びた。新鮮なクリムソンレ
ーキの肝臓を両手で高々と掲げる。古代の神聖な秘術、まるで幼
い頃に自覚もなくはじめたマスターベーションのように、白日に
さらされることはない。
朝、マックで無料のコーヒーを頼み 携帯を開く。思いついた
詩句をメモりながら、写真 一枚の写真 リストカットした写真
を送りつけてきたメランコリアなメス。クリムソンレーキの筋が、
一本、二本、三本、四本、僕は無造作に携帯を閉じ、ポケットに
ねじこむ。無料で配られる味の薄い水っぽいコーヒーの味は、
小さい頃に食べた駄菓子の味に遠く及ばない。
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