ラムネ/あ。
がれそうになり
そうすると何だか負けてしまうような気がして
慌てて傾斜をゆるくする
あたふたするわたしの耳に小さな笑い声
青い瓶を持つ手の先まで真っ赤に染まる
からからからと音がする
ベランダの窓を開けて朝日を取り入れ
ぷしゅんと音をさせてびいだまを押さえる
溢れないように自分の口で出口をふさぎ
そのままごくごくと半分まで飲む
太陽光はほの暗い瓶に吸収され
吸収されなかった分は中のびいだまで屈折する
初めてびいだまを取り出したのは
小学校に上がって間もなくの頃だった
父親にせがんで取り出してもらったそれは
売ってるものより素っ気無く
本来の場所から出されてどこか心許なさそうで
ここにいなくちゃいけなかったんだ
空の瓶を何とはなしに眺めていると
後ろでパンをかじっていたきみが
ラムネを飲むときって蛸みたいな顔になるよね
と言った
次はもうちょっと口をすぼめるようにしよう
声には出さずにこころの中でそう誓いながら
照れ隠しに青い瓶を軽く振る
からからからと音がした
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