今宵、夢見よ/セルフレーム
 
とう御座います―・・・


―何を仰るのですか。
貴方が―・・・


すべてを言い終わらぬうちに、彼は消えてしまいました。
障子に薄く、松の木の影が映っておりました。


彼がいなくなって数日、
橋の工事をしている者達が、切り倒した松の木が動かず困っている、と
父上に助けを求めてきました。

私はすぐ彼の言葉を思い出して、その者達の場所へと急ぎました。
枯れかけた松の細い葉の色は、彼の衣の色に酷く似ていました。

私は自然に、濃く変色した力無い幹に手を添わせました。

すると、
松の木はゆっくり動き出しました。


彼はおそらく、
松の木の精だったのでしょう。


彼のことを忘れぬよう、私はずっと独り身で生きてきました。
今日私はおそらく、
彼の元へいけるでしょう―・・・



そう言って阿古那姫様は微笑み、
床に入りました。


翌朝、
阿古那姫様はお亡くなりになられていました。



今宵、夢見よ。




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