さざなみ/千波 一也
 


さざなみは
優しい顔して
ぼくらをつかまえる

数え足りるくらいしか
ぼくらは夏を
めぐっていない
それなのに、
ぼくらは
もう
夏のなかでしか
生きられないような
生きてはいけないような
焦りが
しずかに
かさなって
聞こえてくるのは
さざなみだけ




 言葉に
 できないものなど
 どこにも無いよ

 ただ
 ぼくたちは
 乾いていくから
 間に合わないことは
 数多くある


 うるおうことが
 言葉の権利で
 それを
 ぼくらは
 忘れやすい



さざなみは
正直すぎるうそつきで
ぼくらのつよさを
さらってく

優しい顔して
うるおって
夏を
無限に
語らせて





戻る   Point(8)