山に地面の/番田 
 
考えながら誰に会うこともなく
咳でふせこんでいると
遠くには「野火焼き山」という名の山があり
「深谷」という名前の海があった



遠くに昇っているのが見えた
月が
遠くに沈む
夕日を見ていた
奴隷のようだが
誰かに会えるだろうと
僕は誰の声もないままに歩いていく

どこまでも寂しい限りだ
青と群青色の幽霊が出るという
ウミウシが
死んだ黒い体を引きずっている
人生だけは
続いていくみたいだな

向こうにそんなものを見ていた
そこには
死体がたくさん埋まっていて
もがき苦しむ様子が浮かんだ

木で作った
ベッドに入り
声も出さずに
なにもすることもなかった



何十年も前に
周囲の家を焼き尽くしたという
近くには
蛙がいて
モヤリと乗っていた
父のことを
ザンブザンブと思い出した
ポケットには
一輪のコスモスが

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