失われた水泳部員/北村 守通
 
やくなって
せわしくなった


どこからか
Mの巻き込まれている事態というやつが
風の噂とやらで伝わってきた
情報源が誰なのかは知らない
信用に足るのかどうかも知らない
そこには必要な距離があった
お互いにそれを知っていた


  母親が
  『違うひと』
  と
  父親に疑われ問い詰められたらしい

  そのこと自体は違っていたらしいのだが
  結局
  Mは二者択一を迫られることになったらしい


更に
月日は経ち
プールは閉められたが
Mは戻ってこなかった
母親と共に生きているのか
父親と共に生きているのか
知る術はない
あるいは
そのどちらでもないのかもしれない
お互いに
必要な距離というものが確かにあった


Mの名前は
忘れてしまって
思い出すことはできない
卒業アルバムの中にも
Mは居ない

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