円環のひと/恋月 ぴの
 
そそくさと去り行く夏の記憶を確かめようと
深緑色に澱むお堀ばたを訪れてみた

色とりどりのウエアでストレッチに余念の無い肢体は眩しく
人恋しさを見透かされてしまうようで
遠慮がちにちょっと離れた日陰のベンチへ腰掛ける

今ごろならヒグラシなんだろうけど

あいにくの蒸し暑さが蝉の鳴き声さえも遮ってしまったのか
湿っぽいベンチから見上げる空には雲ひとつ見えなくて
幼い子供たちの歓声に伏せ目がちな視線を上げた

内堀通りを挟んで向かい側にはイギリス大使館
千鳥ヶ淵公園の片隅に設えられた児童公園の小さなプールには
疑うことを未だ知らぬ屈託のない笑顔

昔ながらの浮き袋を
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