風を切って/番田
誰も知らない街の中を歩いていく
暗闇の中では銃の光だけがやけにまぶしい
黒いバッグの中には一冊の聖書が入っていた
*
ただ分厚いだけの何も語らない聖書
何もかもが嫌になったときでも
黄金のすべてを抱く月
だれの言葉もないほど
手袋はもう買った時の匂いはなかった
アイポッドにはいくつかの名曲だ
いつもそれを耳に当てている
そして耳当てはとても高価なものを使っている
黒ずんだコートだけが不気味に赤かった
真っ黒な君はそれを聞くだろう
そういうものがあれば幸せだろう
キラキラに黒ずんでいるわけではなかった
スニーカーには汚れが満載だ
*
そんなふうに君に俺は疲れていた
黄色くて黄味みたいに見えた
群青色の夜闇に月がひとつ
奴隷の縄も怪しく光り輝くのだ
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