最後の誕生日/吉原 麻
買って帰るあたしが好きなケーキをあげるほうが
ケーキに幸せがつまると思うんだ。
パパとママ二人でようかん食べるより、幸せな誕生日の象徴みたいなケーキを
3人で食べるほうが、パパも嬉しいと思わない?
あたしあのケーキ屋さんでどれにしようかって選ぶの大好き。
3つしか買わないって決まってて、それがパパとママとあたしの3人分だとなると、
よけいに楽しくなるんだ。
あたしはチョコのじゃなくて苺のケーキ、
ママはチーズケーキが好き、
パパはあんまり甘くなさそうなのがいいかな、なんて考えてると
あたし今日も楽しくすごせたなぁなんて
しみじみ思っちゃうんだ。
JRの駅の地下のケーキ屋さんで、そんな日常に入っていっていいのかわからない僕も必死になってケーキを選ぶ。背の低い彼女は僕の前に立って笑顔で考え込んでいる。店員さんは困ったのか無言になってしまう。僕は少し人目を気にするが、彼女はいつもとかわらずなにをするのもゆっくりだ。30分もすれば彼女はケーキを3つ箱に入れて、いつものバスに乗っていくだろう。
今日は彼女の父親の誕生日だ。
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