最後の誕生日/吉原 麻
ケーキにしようか、父の好きなようかんにしようか。
彼女は朝からそんなことを言って嬉しそうに笑っている。今日は彼女の父親の誕生日だという。祝うほうも祝われるほうもそこまで意識しない年齢だと思うのだが、彼女はプレゼントのことを話しては「フフッ」と笑う。こういう小さな幸せを自分のものにできるのが彼女の良いところではないだろうか。彼女なりの小さなこだわりを抱いて、日常に精一杯対抗している。
パパの誕生日なんだからパパの好きなようかんを買って帰るのが一番嬉しいと思うの。
でも問題はね、あたしがようかん好きじゃないってこと。
ママはたぶんケーキもようかんも好き。
だったらね、買っ
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