トルネード・トラジェディ/渡 ひろこ
 
それは黒い鍵爪だった
重く垂れた空からスッと湿った宙を引っ掻いては
狡猾に隠れる
くり返される蹂躙
積乱雲はメデュ―サの含み笑いの唇をふちどり
うすく開いた


生々しいクレバスを曝け出す空
目を背けるとジットリ肌を濡らす大気
大音響でクライシスを知らせる雷鳴
水分を吸った羽では
ヒヨドリは飛び立てなかった


真実を暴こうとまっすぐ天を仰いだら
饒舌な言い訳が降りそそぐ
語気を荒げた白い礫は
赤いセダンのボンネットを凹ませ
地面に弾き飛ぶ
叩きつけられたアスファルトは
礫が融けても言葉を沁みこませない



あまりに醜いので歌をうたった
サディ
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