椅子の上で膝を抱えていいことだけを思い出す/藤原有絵
「嫌な事って、忘れてしまって
いい事しか 残らないんですよね」
カラリと笑った女の子の言葉が
終電の空席に余韻を残して
その言葉の隙のなさに
胸がグッとなること 数回
夜が遅くなるほど帰りたくなくなるのは
ただの惰性で 特に理由などない
最寄りの駅のホームで感じる正しい寒さに胸は鳴る
浅い眠りから戻ると
古い雑誌を片っ端から整理して
私が何に興味をそそられてきたのかを
乾いた古紙から改めて指先で確認する
変わらず本棚に片されるもの
頓着無く処分するもの
心の移り変わりの激しいこと
これは悲観ではないでしょう
何もかも抱えたままで行ける場所
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