こえだけがきこえる/木屋 亞万
え、こえても、こえ、こえても、こえ
こえをだすたびに
すこしずつかわいていく
かわいていく、のは、のどだけではない
いのちはどれもからからになって
いつかはしんでいく
こえだけがみみにのこって
しんでも、もういなくても、こえだけが
みみもとで
こわいくらいちかくで
はっきりとなにか
なまえをよんでいるきがする
みみだけがおぼえている
みみにはいるちょくぜんのこえのけはいを
そのさきにあるくちと
そのくちをもつものが
いまでもそこにいるようなきがして
いちどもだきしめあえなかったことが
かなしくおもえる
なつのよる
じぶんのこえをわすれてしまうくらい
しずかなまよなか
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