病院にて/緋月 衣瑠香
現実世界なのに現実から浮いている
ふわりと白いくせにぴりりとした空気が漂っている
座っている青いシートの椅子さえも虚空に感じる
この世界でもっとも異世界に近い場所に来てしまった
しずかなのだ
足音だってしゃべり声だって聞こえる
しかし、しずかなのだ
だった一つの声が耳に入らない限り無音の世界
よくわからない緊張感と闘っている
自己封鎖的世界
そこにどっぷりと浸かっている
と、
通路を挟んで隣の席にベビーカーを押す女性が座った
女性は赤ん坊に話しかけるなりベビーカーを揺らした
赤ん坊は女性を見て声をあげ笑う
母親らしいその女性は声なく笑う
しかし、彼女は気付か
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