溌剌とした宇宙/吉岡ペペロ
るドトールコーヒーで
三十五年ぶりに母と再会した
ああ、これが母なのか、
ぼくはじぶんのことを
そのときほど愛しく思ったことはない
ああ、これが母なのか、
姿や形、解釈や余韻をかえて、ぼくのなかで母でありつづけた母、
幼いころからのあらゆる母への思いを
めのまえの老女がぼくに許させた
手術室が閉まった
手術室までの道すがら
ぼくには母に伝えたかったことがあった
でも伝えられなかった
それはすごくつまらないことだ
母の病室は617号室で
61はひっくりかえしたら19で
7月19日は、お母さん、ぼくの誕生日だよ、
宇宙は溌剌としていた
滴るような蝉の声が宇宙に降っていた
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