溌剌とした宇宙/吉岡ペペロ
 
宇宙は溌剌としていた
滴るような蝉の声が宇宙に降っていた

病院ですれちがう人々はどんな人も
それぞれの生や死をしのばせていた
ぼくはそれに無関心を装いながらエレベータを探していた

ぼくは5歳のころ母と別れた
親戚の家で母はぼくに
形見のように戦車のオモチャを渡した
それでさよならだった
母への思いは姿や形、解釈や余韻をかえて
ぼくのなかで常住だった

ぼくは母の手術にたちあうために
生まれてきたのかもしれない
看護婦が手術室の広い銀色のドアを開く
そのなかに母が入った
そのうしろ姿を見ていた
病気になってから母はぼくに連絡をくれた
大学附属病院内にあるド
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