茅ヶ崎/うめぜき
 

茅ヶ崎の海辺を
ビールを片手に歩き続けると
海面が生き物のようにキラキラと音を立てた
私はTシャツに綿パン、サンダルという散歩の延長のようないでたちで
あの人が生き急ぐようにしていたことを想った

歳を重ねて
燃えるような情欲の果てに
人は優しく忘れ合っていくのだと知ると
それこそが愛だと僕は疑い始めた

恋人同士やサーファーの海辺に
子供が迷い込んでは楽しげに笑っている
その笑い声が風化して
波打ち際の海と砂との奏であいの果てには
やさしく孤独がひしめきあっているのだ

 …

茅ヶ崎の海辺で私は私を持て余している
誰のことを忘れたのかすら忘れてしまったのだが
君はまだ僕を忘れていないのだろうか
忘れずにどこかで
生きていてくれているだろうか

そうであって欲しいと想っていると
海面がキラキラと音を立てて
子供たちが歓声を上げて
体を振り絞り海へと走っていった
片手の缶ビールをぐいっと飲み干し
私も海と等距離を保ちながら歩き始めたのだった






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